あれは確か、俺が小5、妹が小3のときのことだったと思います。図書館に行った帰り道。くだらないことでケンカをしていて、俺と妹は道の反対側を歩いていました。

すると向こうから見知らぬおっさんが「おーい、妹子ちゃん、妹子ちゃん!!」って、叫びながら走り寄ってきました。「誰だ?」と思いながら、後ろから見ていると…

おっさんはハアハアしながら、「大変だ、妹子ちゃん。お兄ちゃんがね、さっき交通事故に遭ったんだ!!」「はっ!?」妹は絶句。俺も少し離れて絶句。

そりゃそうだ。だって、妹には俺しか兄はいないんだから。びっくりしすぎて、ケンカしていたことなんか忘れて妹に近寄る俺。

「お父さんも母さんもね、もう病院にいるよ。おじさんはお父さんと会社が一緒で妹子ちゃんを探しに来たんだ。あっちに車あるから急ごう!!」

そんなようなことをまくしたてるおっさんは、近づいてくる俺に気づいてちょっと嫌そうな顔をしました。俺たちは似ていないし、兄妹とは思わなかったんでしょう。

でも、妹に語りかけるのはやめず、今にも手を引いて連れて行きそうな勢いです。俺がおっさんを止めようとした瞬間、おっさんを振り払って妹が絶叫!

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん死んでんのっ!?」
「違う、生きてる俺生きてる!!死んでねーよ!!」

と、なぜか泣きながら謎のやり取りをした。おっさんは一瞬フリーズしたかと思うと、次の瞬間すごい速さで走り去っていきました…残された俺たちはただ茫然。

「今のなに!?間違い?誰か事故にあったの?お兄ちゃんは事故にあってないんだよね!?」と、妹は家に帰り着くまでずっと叫んでいました。

俺は妹なだめながらも、「実は本当は事故に遭ってて、幽体離脱的な何かしてるだけだったらどうしようっ」って、わけのわからないことを考えていたり(笑)。

でも今、大人になって思い返すと本当にぞっとします。もし俺がいなかったら、妹はおっさんについて行ってしまったでしょうから…