15年ほど前、私はとあるビルのガードマンのバイトをしていました。

あるとき、そのビルが窃盗にあいました。非常ベルが鳴ったのですぐわかり、私ともう一人でかけつけてみると犯人がちょうど窓から逃げるところでした。


暗かったこともあって私には黒い影にしか見えず、あとはあまり太ってはいなかった、というくらいしかわかりませんでした。

しかし一応、犯人目撃者ということで警察で取り調べを受けました。本当になにもわからなかったのですが、警察の半誘導尋問と呼んでもいいくらいの取調べにはまいりました。

「犯人は青い服をきていただろう?」

何度も「わかりません」と答えましたが、あまりのしつこさに、いつしか私は警察の言うとおりに思い込むようになっていました。

『犯人は、青っぽい服装で40くらいの中肉中背の男、靴はスニーカー』

やがて犯人が見つかり、私は裁判で警察に思い込まされた犯人像をそう証言してしまいました。はっきり言って、面倒になっていたのです。

時が過ぎ、そんな事があったと言う事も半ば忘れていたちょうど2ヶ月前の夜、男の声で電話がかかってきました。

「もしもし○○です」
「○○か?」
「はい、そうですが」
「本当に○○か?」
「ええ、どちら様ですか?」

「お前、15年前、裁判で嘘の証言をしただろう」

――私は、可能な限りの速さで引っ越しました。