今から数年前、僕と僕の友人だった人間が、学生だったころの話です。
それは夏休みの頃でした。自由研究のため、友人と、「心霊現象」について調べることなりました。彼はいつもヘラヘラしてるお調子者で、どちらかといえば人気者タイプ。いるかいないかわからないような陰の薄い僕と、何故あんなにウマがあったのかは、今となってはわかりませんが…。
とにかく僕らはなんとなく仲がよかったんですね。ですから自由研究も、自然と二人の共同研究の形になりました。また、心霊現象を調べようと持ち掛けたのは、他ならぬ彼でした。
「夏だし、いいじゃん。」しつこいくらいに話を持ち掛ける彼に、断る理由も無かった僕はあっさりOK。
そのとき僕は、彼はそんなにオカルト好きだったのか、そりゃ意外な事実だな、なんてくだらないことを考えていました。
「どこ行く?伊勢神トンネルとか?」僕が自分でも知っている心霊スポットを口にすると、彼は首を横に振ります。
「あんな痛いトコ、俺はムリ」その時の言葉の意味は、僕は今も理解ができないままでいます。何故「怖い」ではなく「痛い」なのか、今となっては確かめようがありません。
とにかく彼は、僕が何個か挙げた心霊スポットは全て事々く却下。意見を切り捨てられた僕は、いい加減少しムッとしてきました。
すると彼は「大門通の裏手に、アパートがあるだろ。あそこにいこう」と言い出しました。
そのアパートの存在は、僕も知っていました。もっとも、心霊スポットだとかオカルトな意味じゃなく、蔦や葉っぱに巻かれたアパートです。
特に不気味なアパートってわけでもなく、入居者もいないような所でした。しかし、取り壊されることもなく、下手したら数十年、そこに在り続けているアパートでした。
「あんなとこ行っても、なんもねーじゃん。幽霊がいるワケじゃなし」
「いいから。あそこにしよう。」
彼は渋る僕を強引に説き伏せ、結局、翌日の終業式のあとに、そのアパートに向かうことになりました。
時刻は午後4時36分。僕らはアパートの前に着きました。そのときの彼の横顔がなんとも言えない表情だったことを、僕は忘れられません。彼はひと呼吸置くと、「終わった、な。」と言いました。
その言葉の意味がよくわからなかった僕は、彼に聞き返しましたが、彼は無言のまま僕の手を引きます。そんな彼の様子に、いつものお調子者の彼とは違う…そんな不安が胸元にチラつきました。
そんな僕に構うことなくアパートの階段を上る彼。そして、「302」とプレートのついた部屋の前に立ちました。
異様な空気が、僕の背中を掠めます。「こ…これからどうするんだ?」僕の問いかけに彼は答えることなく、ドアの前にあった、枯れた植木鉢から鍵を取り出し、ドアを開けました。
「!」
そこには「人間だったもの」が倒れていました。「うぁあぁあぁあっ!!!」僕は大声を上げてヘタリこみました。
玄関先には女のひとが伏せるように倒れていて、その体の下からは、大量のまだ生々しい赤黒い血が、水溜まりをつくっています。僕はガタガタ震えながら、彼を見ました。
でも彼は、「あはははははははははははははははは!!!!!!」そう笑うだけです。
一瞬、彼が発狂したのかと思いましたが、そうじゃありませんでした。
「見ろよ!!これが人間の業なんだよ!!ラクになりたくて死のうとしたって、死ぬことにまだ苦しむんだ!!
この女、2日も前に腹をかっさばいたんだぞ!!2日だぞ!!2日も死ねなくて、痛い痛いって死んだんだ!!痛い苦しい助けてって、声も出ないのに叫びながら死んだんだよ!!!!死にたくなって腹を切ったのに、死にたくないなんて我が儘もいいとこだ!!」
彼が早口でまくし立てます。そのときの僕は、正直、死体よりも、血よりも、何よりも、彼が凄く怖くなりました。「死にたくないなら死ぬんじゃねぇよ!!!!死にたくなくても死ぬんだから!!!!馬鹿馬鹿しいにも程がある!!!神様なんていやしない!!!助けてくれるやつなんか、世界が終わっても来やしないんだよ!!!!」
彼は叫び続けました。僕は彼に必死にすがりついて、わけのわからないことを口走りながら、泣いていました。しばらくして我にかえると、彼が僕の頭を撫でていました。「警察、呼ばないとな。」先ほどまでの凄まじい形相の彼とは違い、でも僕の友達だった、ヘラヘラ笑うお調子者の彼も、もうどこにもいませんでした。
僕らは警察を呼び、簡単に事情を聞かれて、家に帰されました。僕らは一言も口を聞かぬまま、別れました。
その日、僕はいろんなことを考えました。何故、彼はあのアパートに行こうと言い出したのか…。何故、彼はあの女のひとが2日前に自殺を図ったことを知ってたのか…。何故、彼はあの部屋の鍵の場所を知ってたのか…。彼がつぶやいた、「終わったな」って、なんだったのか…。
そこまで考えて、僕はひとつの疑問が浮かびました。
僕らが部屋に入ったあの時点で、本当に、あのひとは死んでいたのか?もし、まだ死んでなかったなら。そして、自殺じゃなかったなら…。そこまで考えて…。彼は…。
それは夏休みの頃でした。自由研究のため、友人と、「心霊現象」について調べることなりました。彼はいつもヘラヘラしてるお調子者で、どちらかといえば人気者タイプ。いるかいないかわからないような陰の薄い僕と、何故あんなにウマがあったのかは、今となってはわかりませんが…。
とにかく僕らはなんとなく仲がよかったんですね。ですから自由研究も、自然と二人の共同研究の形になりました。また、心霊現象を調べようと持ち掛けたのは、他ならぬ彼でした。
「夏だし、いいじゃん。」しつこいくらいに話を持ち掛ける彼に、断る理由も無かった僕はあっさりOK。
そのとき僕は、彼はそんなにオカルト好きだったのか、そりゃ意外な事実だな、なんてくだらないことを考えていました。
「どこ行く?伊勢神トンネルとか?」僕が自分でも知っている心霊スポットを口にすると、彼は首を横に振ります。
「あんな痛いトコ、俺はムリ」その時の言葉の意味は、僕は今も理解ができないままでいます。何故「怖い」ではなく「痛い」なのか、今となっては確かめようがありません。
とにかく彼は、僕が何個か挙げた心霊スポットは全て事々く却下。意見を切り捨てられた僕は、いい加減少しムッとしてきました。
すると彼は「大門通の裏手に、アパートがあるだろ。あそこにいこう」と言い出しました。
そのアパートの存在は、僕も知っていました。もっとも、心霊スポットだとかオカルトな意味じゃなく、蔦や葉っぱに巻かれたアパートです。
特に不気味なアパートってわけでもなく、入居者もいないような所でした。しかし、取り壊されることもなく、下手したら数十年、そこに在り続けているアパートでした。
「あんなとこ行っても、なんもねーじゃん。幽霊がいるワケじゃなし」
「いいから。あそこにしよう。」
彼は渋る僕を強引に説き伏せ、結局、翌日の終業式のあとに、そのアパートに向かうことになりました。
時刻は午後4時36分。僕らはアパートの前に着きました。そのときの彼の横顔がなんとも言えない表情だったことを、僕は忘れられません。彼はひと呼吸置くと、「終わった、な。」と言いました。
その言葉の意味がよくわからなかった僕は、彼に聞き返しましたが、彼は無言のまま僕の手を引きます。そんな彼の様子に、いつものお調子者の彼とは違う…そんな不安が胸元にチラつきました。
そんな僕に構うことなくアパートの階段を上る彼。そして、「302」とプレートのついた部屋の前に立ちました。
異様な空気が、僕の背中を掠めます。「こ…これからどうするんだ?」僕の問いかけに彼は答えることなく、ドアの前にあった、枯れた植木鉢から鍵を取り出し、ドアを開けました。
「!」
そこには「人間だったもの」が倒れていました。「うぁあぁあぁあっ!!!」僕は大声を上げてヘタリこみました。
玄関先には女のひとが伏せるように倒れていて、その体の下からは、大量のまだ生々しい赤黒い血が、水溜まりをつくっています。僕はガタガタ震えながら、彼を見ました。
でも彼は、「あはははははははははははははははは!!!!!!」そう笑うだけです。
一瞬、彼が発狂したのかと思いましたが、そうじゃありませんでした。
「見ろよ!!これが人間の業なんだよ!!ラクになりたくて死のうとしたって、死ぬことにまだ苦しむんだ!!
この女、2日も前に腹をかっさばいたんだぞ!!2日だぞ!!2日も死ねなくて、痛い痛いって死んだんだ!!痛い苦しい助けてって、声も出ないのに叫びながら死んだんだよ!!!!死にたくなって腹を切ったのに、死にたくないなんて我が儘もいいとこだ!!」
彼が早口でまくし立てます。そのときの僕は、正直、死体よりも、血よりも、何よりも、彼が凄く怖くなりました。「死にたくないなら死ぬんじゃねぇよ!!!!死にたくなくても死ぬんだから!!!!馬鹿馬鹿しいにも程がある!!!神様なんていやしない!!!助けてくれるやつなんか、世界が終わっても来やしないんだよ!!!!」
彼は叫び続けました。僕は彼に必死にすがりついて、わけのわからないことを口走りながら、泣いていました。しばらくして我にかえると、彼が僕の頭を撫でていました。「警察、呼ばないとな。」先ほどまでの凄まじい形相の彼とは違い、でも僕の友達だった、ヘラヘラ笑うお調子者の彼も、もうどこにもいませんでした。
僕らは警察を呼び、簡単に事情を聞かれて、家に帰されました。僕らは一言も口を聞かぬまま、別れました。
その日、僕はいろんなことを考えました。何故、彼はあのアパートに行こうと言い出したのか…。何故、彼はあの女のひとが2日前に自殺を図ったことを知ってたのか…。何故、彼はあの部屋の鍵の場所を知ってたのか…。彼がつぶやいた、「終わったな」って、なんだったのか…。
そこまで考えて、僕はひとつの疑問が浮かびました。
僕らが部屋に入ったあの時点で、本当に、あのひとは死んでいたのか?もし、まだ死んでなかったなら。そして、自殺じゃなかったなら…。そこまで考えて…。彼は…。
コメント