小学校の低学年の頃、近所のおっさんに誘拐されかけたことがあります。坂の下にある友達の家の前で、友達が忘れ物を取りに行ってるのを待っている時のことです。たまに公園とかで見かける近所のおっさんに俺は「何してるの」と話しかけられました。

おっさんに話しかけられるのは初めてだったので、モゴモゴと「お友達がね」とか言いました。すると、おっさんは周囲を見回し、俺の腕をグイっと引いて無理矢理、車に俺を乗せようとしたのです。

子供ながらに大ピンチだ思いました。俺は「助けてー助けてー」と悲鳴を上げました。

その時、坂道のてっぺんに、遠いところなのにやけにハッキリと母の姿が見えたのです。母は驚愕の表情を浮かべるや、物凄い怒号を発しながら、信じられない速さで坂を走り下りてきました。そして、なんとオッサンにエックスジャンプ!

俺もおっさんも母も転倒しましたが、母はすぐ起き上がると猛然とおっさんを履いてたツッカケで連打しはじめました。その後、友達のじいちゃんが

「どうしたね~!!奥さん!奥さん!」

と仲裁に入ってきて、やっとことは収まりました。ただ、それで母は両足の靭帯を切ってしまい、その後もかなり長い間寝込んだり、杖をついてたりしていました。俺はそのことを詫びましたが、母はゲラゲラと笑っているだけでした。

おっさんは、公園で小さい子のパンチラを撮ったり、「何か買ってあげるからうちに来なよ」と子どもを家に連れ込んだりしたりしていて、前科がついていたそうです。大人の間では札付きのクズだったとも聞きました。

可愛い女の子でもなかったのに狙われたのも衝撃だったし、鬼の顔で大の男にエックスジャンプ キメてる母の姿も衝撃でした。

でも、それよりなにより、母は強いと思いました。助けてと呼んだら鬼の速さで駆けて来る。それが母なのです。